伝習館高校 保健委員研究会発表会

「大木町における物質循環のとりくみについて」

 

 福岡県立伝習館高等学校定時制課程

3年  井口嘉奈子
3年  緒方 千恵
3年  末松 未来
2年  林  あこ

Ⅰ.はじめに

  6月19日、保健会の研修として福岡市の「まもるーむ福岡」を訪問しました。ここには「水」「空気」「音」「食品」「保健」「自然・生き物」などのテーマで環境について考えるコーナーがありましたが、それらの全体を通して「共生と循環」という視点で考えていくことが大切だということを、学ぶことができました。そのことを頭におきながら、伝習館高校としての研究テーマをどうするか、考えてきました。

 その時先生から、柳川市の隣町である三潴郡大木町で、「平成28年までにごみ処理をやめよう」という「循環のまちづくり宣言」(もったいない宣言)が出されているという話を聞きました。小さな町でどうしてそんなとりくみができるのか、まずは足を運んでみようということになりました。

 8月25日、おおき循環センター「くるるん」を訪ねて、担当の境公雄さんからお話をうかがい、生ごみ・し尿・浄化槽汚泥を発酵させ資源化する施設などを見学させていただきました。この「くるるん」は、第1期工事が平成18年11月に完成して、稼働しています。平成21年度までに第2期工事を完成させる予定とのことでしたが、境さんは、「ここは決してごみ処理施設ではありません。生ごみなどをバイオマス資源として積極的に地域で循環利用するための施設です。また循環のまちづくりの拠点として、循環型社会や自然環境に関する学習をしたり、豊かな地域の食材を提供したり、地域の皆さんが集まるための施設です。」と話されていました。2期工事では、農産物直売所や郷土料理館ができることになっているそうです。

 ごみ処理施設は多くの場合、迷惑施設として地域の住民に嫌われていますが、この「くるるん」は町の中心部にあります。「生ごみ」や「し尿」を持ち込んでいますが、ほとんど臭いがありませんでした。資源として再生させるわけだから、住民から嫌われてはいけないわけです。

 以下、当日見学したことを中心にして、大木町のとりくみを報告します。

Ⅱ.大木町における物質循環のとりくみについて

 1.大木町とはどんな町

 三潴郡大木町は、福岡県の南西部に位置し、筑後平野のほぼ中央にあります。大木町の周囲 を、久留米市、筑後市、柳川市、大川市が取り囲んでいます。

 町全体が標高4~5mのほぼ平坦な田園地帯です。町の総面積の約14%を占めるクリーク(堀割)が、町全体を縦横無尽に走っており、日本有数のクリーク地帯です。

 総人口は約1万4千人あまり、世帯数は4,443世帯です。主な産業は、米・イチゴ・キノコ・アスパラ・い草などを中心とした農業です。

 現在本校定時制には、大木町から3名の生徒が通っています。

 2.循環のまちをつくるとりくみ(基本方針)

(1) ゴミを出さないまちづくり

  大木町は、2008年3月11日、町議会の議決を経て、もったいない宣言(ゼロウェイスト宣言)を公表し、2016年までにごみの焼却・埋め立て処分をしないまちづくりを目指すことを宣言しました。ゼロウェイスト宣言は、徳島県上勝町に続き、全国で2番目です。 

 「もったいない宣言」の具体的な内容については、後ほど紹介します。

(2) バイオマスの利活用

生物資源を積極的に活用していく方針を認められ、大木町は2005年にバイオマスタウンの認定    を受けています。具体的には、

ア. 生ごみ・し尿・浄化槽汚泥を発酵させ、得られるメタンガスによって発電し、残液を有機肥料とし  て土に返しています。これが<有機資源循環事業>で、これについては、後ほど詳しく説明します。

イ.廃食用油を軽油代替燃料(BDF)に変え、役場のディーゼル車の燃料として使います。これは、<菜の花プロジェクト>と呼ばれています。

(3) 再生可能エネルギーの普及

ア.太陽光発電の普及
  ・アクアス地域共同発電所の設立を目指しています。

イ. 町内の小学校全校に太陽光発電施設を設置。

ウ. 省エネルギー、太陽熱利用、木質バイオマスの活用。

3.具体的なとりくみ                                                  (1) 大木町もったいない宣言(ゼロウェイスト宣言)

  先ほども紹介しましたが、今年の3月に町議会で議決された宣言で、2016年までに、ゴミの焼却・埋め立て処理をなくすことを骨子にしています。

  

      大木町もったいない宣言(ゼロウェイスト宣言)

 子どもたちの未来が危ない

 地球温暖化による気候変動は、100年後の人類の存在を脅かすほど深刻さを増しています。その原因が人間の活動や大量に資源を消費する社会にあることは明らかです。

 私たちは、無駄の多い暮し方を見直し、これ以上子どもたちに「つけ」を残さない町を作ることを決意し、「大木町もったいない宣言」をここに公表します。

1.先人の暮らしの知恵に学び、「もったいない」の心を育て、無駄のない町の暮らしを創造します。 

2.もともとは貴重な資源である「ごみ」の再資源化を進め、2016年(平成28年)

 度末までに、「ごみ」の消却・埋め立て処分をしない町を目指します。

3.大木町は、地球上の小さな小さな町ではありますが、地球の一員としての志を持ち、同じ志を持つ世界中の人々と手をつなぎ、持続可能なまちづくりを進めます。

     

(2) 分ければ資源(資源物の20分別)

大木町では20分別を実施しています。13.廃油と17.生ごみはバイオマス資源として活用します。焼却・埋め立て処分をなくすためには、まず細かく分別することが大切です。

(3) 拠点としての「おおき循環センター くるるん」

「おおき循環センター くるるん」は2006年11月に第1期工事を終え、オープンしました。第2期工事は2009年度完成を目指しています。次のような特徴があります。   (所在地:三潴郡大木町大字横溝1331-1)

ア.生ごみ・し尿・浄化槽汚泥をバイオマス資源化する施設が中心ですが、これは決してごみ処理の施設ではない、と位置づけられています。

イ.「くるるん」は町の中心部に建設されています。この施設が環境学習や地産地消運動、交流の拠点、言い換えれば「まちづくりの拠点」となる事を目指しているからです。2期工事では、農産物直売所や郷土料理館がつくられる予定です。ですから「くるるん」は、再資源化の施設という他に次のような役割を担っています。

    (ア) 循環型社会や自然環境についての学習・啓発の場。  
    (イ) 自然エネルギーに関する体験学習の場。
    (ウ) 安全・安心農産物の消費推進の場。
    (エ) 地域住民が憩い・集う場。
    (オ) 都市と農村の交流の場。

(4) 地域における物質循環をめざして

 ア.環をつなぐ地域社会システム

 「くるるん」という施設を中心にして、私たちの食べ物となる有機物を大木町という地域の中で循環させる仕組みを作ろうとしています。具体的にいうと次のようになります。

  (ア) 生ごみを分別して収集します。
  (イ) これに、し尿・浄化槽汚泥を加え、「くるるん」のバイオガスプラントで発酵させ、バイオガスと有機肥料を回収します。 
  (ウ) 液肥を有機質肥料として農地へ返します。
  (エ) 液肥や堆肥を使った農産物を給食や家庭の台所で消費します(地産地消)。

 イ.生ごみの分別・回収

 このシステムが成立するためには、町内のすべての家庭・事業所が、生ごみの分別・回収に協力することが必要です。町では平成13年~15年の間に、モデル地域(500世帯)でのテストを繰り返し、改善を重ねてきました。そして昨年11月から町内の全域で生ごみの分別・回収を開始しました。事前にすべての世帯を対象に説明会を開いたとのことです。

 (ア) バケツコンテナ方式で収集します。これは山形県長井市のレインボープラン

方式を参考にしたものだそうです。

 (イ) 町内の全域で、ほぼ10世帯に1個の割合でバケツコンテナを配布します。毎週2回、前日に収集バケツを配布して生ごみを入れてもらい、それを「くるるん」に運びます。生ごみ処理は無料にしています。

 ウ.「くるるん」でバイオ資源に

 分別された生ごみは「くるるん」に運ばれます。ここでし尿・浄化槽汚泥と混ぜられ、「メタン発酵槽」に入れられます。嫌気性の条件下でメタン発酵反応が起こり、バイオガス(主成分メタン)と、黒色の残液が得られます。バイオガスは隣の発電装置で燃やされ、この施設の電力をまかないます。残液はパイプで液肥貯蔵タンクに蓄えられます。

 エ.液肥を土に返す

 予定では1年間に約6,000tの液肥(くるっ肥)が生産されます。これを肥料として使ってくれる農家の協力がないと、物質の循環は完成しません。液肥は主に、水稲や麦などの作物に利用されています。水田に施肥する場合は、水口から水と一緒に流し込むことになります。田んぼに水が入ってない場合や畑には、肥料散布車が活躍します。

 2007年度は、「液肥利用推進会議」に参加する55の農家が31.7haの水田で利用しました。福岡県減農薬・減化学肥料栽培基準に基づく特別栽培米の認定を受け、化学肥料の代わりに有機液肥「くるっ肥」を使用しています。

 (5) 菜の花プロジェクト

 食用廃油は、分別収集の13番にありましたように、別に集められて「くるるん」に運ばれます。ここでは苛性カリを触媒にしてメタノールを加え、エステル交換という化学反応を起こさせて、軽油の代替燃料に変えます。役場で使うディーゼルエンジン車の燃料として使われています。現在のところ、1月に約500㍑の油が集められているそうです。 

 

4.課題

 見てきたように、大木町は小さな町ですが、ごみ焼却処理をやめるというとても大きな課題に取り組み始めています。境さんは次のように話してくれました。

 「ごみは処理をするのが当たり前という考え方そのものを見直さなければいけないと思います。ごみは不用のものと思われていますが、よく見るとすべて資源からできあがっています。大量生産・大量消費・大量廃棄という現在の社会のあり方そのものを問い直すことが大切です。私たちの生活のツケを、子どもたちに残すことは許されません。このことを、まちづくりの基本にすえていきたいと思います」

 そうしたまちづくりを実現するための課題を、境さんはこんなふうにまとめてくれました。

(1) 地域で何ができるか

 基本は「ごみをつくらないこと」です。無駄な包装をしないとか、不用になった物を他の人が使いまわすこと(リユース)ができるような仕組みを、町としても考えたいと思います。キーワードである「もったいない」は、物を大切にするという日本独自の文化から生まれてきた言葉です。これを具体的な町の施策に生かさなければなりません。

(2) 国に制度として求めていく

 しかしながら、小さな町だけでできることは限られています。国に対して環境政策として次のような制度の確立を求めていきたいと考えています。

 ア.EPR(拡大生産者責任制度)

 これは物を作った人(多くの場合は企業)が、その再資源化の責任を持つという制度です。現在は例えばペットボトルの場合も、その処理(回収・再資源化)は自治体の仕事で、住民の税金が使われています。そうではなくてペットボトルをつくった企業、あるいは使った企業の責任で再資源化すべきだと考えます。今の商品の価格の中には、環境に関わる費用は入っていません。

   

 イ.デポジット制度

 製品の価格の中に、一定金額のデポジット(預託金)を上乗せして販売し、製品や容器が使用後に返却された時に預託金を返却する制度です。このことにより製品や容器の回収が促進されます。地域として取り組んでいるところもありますが、是非国全体で取り組みができるように求めていきたいと思います。

Ⅲ おわりに

  今回、大木町の取り組みの説明を聞き、また循環センターの施設を見学させていただいて、私たちが住む柳川市の隣町で、たいへん大きな意味をもつ実験が行われているんだなということに気づかされました。これは行政だけでなく、町の住民みんなの協力がなければ成功しないと思います。

  私たちも、隣町のことだと無関心でいるのではなくて、学んだことを少しでも日頃の生活に生かしていかなければならないと思いました。

 (感想)

・ 今までごみのことはそれほど真剣に考えたこともなく、ごみは増えるものだと考えていました。循環センターで勉強して、人間による地球環境の破壊を食い止めるためにも、ごみを減らし、限りある資源を無駄にしないようにすることが大事だと思いました。   (末松未来)

・ ごみは、捨てたらただのごみになるけど、分別してリユースしたら、何回も使えるし、資源を大事にすることになると思いました。   (井口嘉奈子)