広がる穀物輸出規制/「余剰の時代」の終わりか
河北新報
輸出税を課したり輸出枠を設けたりと、穀物の輸出を規制する動きが主要生産国で相次いでいる。ほとんどが新興国で、穀物価格の高騰に伴って増加する輸出を抑え、国内供給を優先させるための措置だ。
地球温暖化による異常気象の頻発、バイオ燃料の増産に加えて、こうした動きが広がれば、世界の穀物需給はさらに逼迫(ひっぱく)する。世界最大の食料純輸入国である日本にとっては脅威であり、食をめぐる政策・戦略の練り直しが急務だ。
輸出規制の影響が最近あらわになったのはコメ。規制したのは中国、インド、ベトナム、エジプトだ。貿易量が減少したため、国際価格も大幅に上昇。輸入に頼る香港やフィリピンでは、消費者が買いだめに走るなど“コメ騒動”を引き起こした。
この例ばかりではない。米国やオーストラリア、ブラジルなどは別だが、ロシアが大麦、小麦に輸出税をかけたのをはじめ、ウクライナ、セルビア、アルゼンチンなども小麦やトウモロコシを中心に規制を敷いた。
これらの国々、特に中国とインドでは人口増が著しい。さらに日本も経験したように、経済成長とともに食生活が変化し畜産物や脂質の摂取傾向が強まっている。食料としても飼料としても穀物の国内需要が高まったことが輸出規制の背景にある。
これまでの穀物貿易はいわば「余剰の時代」の産物だった。国内であり余った物を輸出し国際市場で「商品」として取引してきた。が、その動きは影を潜め国内供給を優先する流れに変わった。穀物は自国民の生存と安全に不可欠な「戦略物資」としての色彩を強めつつある。
日本は官民ともに、そうした現状を認識する必要がある。
穀物の貿易量は大豆が全生産量の30%に上るものの、コメは7%にすぎず、小麦、トウモロコシも10%台にとどまる。
現状のまま推移すれば、日本は、経済成長が著しく、いずれ輸入国に転じかねない中国やインドなどと、しぼむパイを奪い合うことになる。そうなれば価格はさらにつり上がり、争奪戦に勝っても負けても国民生活に計り知れない打撃を与えよう。
日本の食料自給率は39%、基礎食糧である穀物に至っては27%にすぎない。余剰の時代にどっぷりとつかってきた結果だ。長い眠りから早く目覚めなければならない。
国内農業はかつて過保護という強い批判にさらされ、保護が大幅に削られた。生産効率を高めるため大規模化を促し価格決定も市場原理に委ねる政策が取られてきた。ところが、自給率は一向に上がらず農業現場の疲弊感はむしろ増している。農政の転換が必要なのは明らかだ。
ただ、自給率は急に向上するものではない。外に向けては輸入相手国の偏りをなくすなどして輸入の安定化を図る努力が要るし、備蓄についても戦略的な取り組みが必要ではないか。
われわれ消費者も食べ残しや食品の廃棄をなくすよう努めたい。われわれの食の在り方が世界の飢餓と無関係ではないことも忘れてはならない。
2008年04月20日日曜日