温暖化対策ビジョン/実効ある中期目標こそ必要

(河北新報社説 2008.5.18)

福田康夫首相が6月初旬にも発表する日本の新たな温暖化対策「福田ビジョン」で、温室効果ガス排出削減の長期目標について、2050年時点(基準年は00年)で60―80%減を検討していることが分かった。

これまで政府は、50年での世界の温室効果ガス半減を提唱していたが、国内の中長期目標の設定には慎重だっただけに、大きく舵(かじ)が切られたと言える。

温暖化対策が最大のテーマとなる7月の主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)や、京都議定書に定めのない13年以降の国際的な枠組み交渉での主導権を執るもくろみがあるにせよ、世界に向かって目標を提示する意味は小さくない。

さらに目標数値を高められないかどうかなどを詰め、6月の発表で環境立国・日本を世界にアピールしてほしい。

地球温暖化への認識や対策をめぐっては、先進国と中国、インドなど巨大途上国を含めた途上国、先進国の中でも米国と欧州連合(EU)との乖離(かいり)が著しいことは、京都議定書以来一目瞭然(りょうぜん)だ。

「ポスト京都議定書」についても、EUは50年で60―80%減と打ち出しているが、基準年を1990年としており、日本案より厳しい内容だ。加えて、20年まで20%削減する中期目標も設定している。

一方、01年に京都議定書を離脱した米国のブッシュ大統領は先月、「ポスト京都」で25年までに温室効果ガスの排出量増加に歯止めをかけ、その後減少に転じる中期目標を初めて発表した。中期目標は世界の大勢から後戻り感がある上、中国などほかの主要国が計画達成を義務化する場合にだけ国際的枠組みに拘束されるとしており、EUなどから批判が高まっている。

食糧はじめ、資源の多くを輸入に依存する日本に課せられた
役割はあくまで地球環境を重視し、EUの主張に近づき、米国や中国、インドを枠組みに取り込むことだろう。

その点、日本の国立環境研究所は国内で温室効果ガスの70%削減が可能だとしており、長期目標でもこのデータを軸にすべきだ。経済成長や国際競争力の観点から産業界などに反対の声は強いだろうが、地球環境保護という大局的見地から、立ち位置を決めなければならない。

そして早期に設定しなければならないのは、現実感のある中期目標の方だろう。長期目標はスローガンのようなものだが、中期目標は実効性を担保しなければならない。

大きな削減数値を盛り込んだ中期目標を掲げて、温暖化防止に取り組む姿勢を示し、途上国の積極参加を求めることが必要だ。

それにつけても08―12年の5年間の温室効果ガスの平均排出量を90年比で6%削減するという京都議定書の約束は、絶対に守らなければならない。

このままの状態が続けば21世紀末に地球の平均気温が最大6.4度も上昇、異常気象による洪水や干ばつなど人の生死にかかわる現象が続発する。こんな警告を忘れてはならない。
2008年05月17日土曜日